映画で巡る世界の街
 Vol.90

小樽市

所在地【北海道】

ノスタルジックな美しき街、
小樽市

 小樽出身の作家・伊藤整の『若い詩人の肖像』に「坂の上から見下ろすと、港は鈍く光り、石造りの倉庫群が冷たい海風を遮るように並んでいた。その光景には、どこか遠い異国の港町を思わせる…」という一節があります。「坂」「港」「石造りの倉庫」「海風」が醸し出す重厚な雰囲気と、ノスタルジックな運河や独自のレトロカルチャーは、現代人にも旅情を誘う小樽の魅力です。

 都市・小樽の歴史をたどれば、古くは北前船の拠点、明治になり北海道開拓の玄関口として発展したことに始まります。運搬作業の効率化のため大正12年に完成したのが「小樽運河」で、運河沿いにはニシン粕(肥料)などの保管庫として石造りやレンガ造りの倉庫が次々に建てられました。大正時代から昭和初期にかけては多くの銀行が並び、北海道最大の金融街を形成。「北のウォール街」とも称されるほど繁栄し、商業都市として全盛期を迎えます。

 時代を経て、市民の保存運動をきっかけに過去の歴史的建物を観光資源として活用。ノスタルジックな観光都市に再生した小樽には、国内外から多くの観光客が訪れています。

■アクセス

東京(羽田空港)から千歳(新千歳空港)まで約1時間半。空港から小樽市内まで電車で約1時間20分。

人口約10万人(2025年10月現在)。地名はアイヌ語の「オタ・オル・ナイ(砂浜の中の川)」に由来する。日本海(石狩湾)に面した天然の良港を抱え、古くから交易の拠点として発展。市内には「旧日本銀行小樽支店」をはじめ、「小樽市歴史的建造物」に指定されたレトロな近代建築が今も数多く保存されている。近年はガラス工芸に加え、世界最大級のオルゴール専門店などが集まる音楽とアートの街としても独自の魅力を放っている。

人口約10万人(2025年10月現在)。地名はアイヌ語の「オタ・オル・ナイ(砂浜の中の川)」に由来する。日本海(石狩湾)に面した天然の良港を抱え、古くから交易の拠点として発展。市内には「旧日本銀行小樽支店」をはじめ、「小樽市歴史的建造物」に指定されたレトロな近代建築が今も数多く保存されている。近年はガラス工芸に加え、世界最大級のオルゴール専門店などが集まる音楽とアートの街としても独自の魅力を放っている。

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  映画が紡ぐ、坂と海の物語

 昭和30年代半ばごろまで、市内に23軒もの映画館が存在していた小樽。人口比では道内で一番の映画の街でしたが、現在は映画の舞台として数多く登場します。例えばアジア圏で絶大な人気を誇る岩井俊二監督の『Love Letter』(1995年)は、雪の小樽を舞台に、天国へ旅立った恋人をめぐる切ない記憶を描いた人間ドラマです。また、吃音をもつ少年がアイススケートを通じて少女と出会い、不器用ながらも心を通わせていく瑞々しい日常を捉えた『ぼくのお日さま』(2024年)も、冬の小樽が登場します。

 この2つの作品に共通するロケ地として印象的に登場するのが「船見坂」です。小樽駅から徒歩ですぐの場所にあるこの坂は、急勾配を上ってふと振り返ると、まっすぐにのびる道路の先に小樽港の青い海が広がっています。

 坂と海が織りなすコントラストを眺めながら坂を下ると、明治から大正期に建てられた商家や洋館が並ぶ賑やかな「堺町本通り」へ。通り沿いにあるガラス工芸の老舗「北一硝子」では、明治期の石油ランプ製造から始まった職人の繊細な技が光るグラスが並び、旅のお土産として世代を問わず人気です。近隣には全国的に有名な「小樽洋菓子舗ルタオ」の本店もあり、看板商品のチーズケーキ「ドゥーブルフロマージュ」は口の中でとろけるおいしさ。小樽のお土産として人気の逸品です。

『Love Letter』で主人公の働く図書館として使われた「旧日本郵船小樽支店」。

『Love Letter』で主人公の働く図書館として使われた「旧日本郵船小樽支店」。


「船見坂」は傾斜が約15%の急坂。

「船見坂」は傾斜が約15%の急坂。


「堺町本通り」は約900mにわたって歴史的建造物が並ぶ目抜き通り。土産物店などが軒を連ねる。

「堺町本通り」は約900mにわたって歴史的建造物が並ぶ目抜き通り。土産物店などが軒を連ねる。


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  静寂の運河沿いと煌めく夜景

 小樽港の方へ足を延ばせば、脚本家・倉本聰が手がけた映画『海の沈黙』(2024年)のロケ地となった「小樽倉庫埠頭2号」があります。天才画家のドラマを描いた本作の重要な舞台に選ばれ、静けさをたたえる石造りの佇まいは、映画の持つミステリアスな世界観をリアルに感じさせてくれます。

 また、切ない愛の物語を描いたNetflixシリーズ『さよならのつづき』(2024年)でも小樽がロケ地となり、「小樽商科大学」や近くの「地獄坂」などは重要なシーンで登場。そして、全景カットに使われたのが「北海道三大夜景」の1つに数えられる「天狗山からの夜景」です。港町の灯りが煌めくパノラマは、登場人物たちの愛の記憶のようにドラマチックな美しさです。

 ロケ地巡りの締めくくりは、港町ならではの海の幸を味わいましょう。小樽運河からほど近い場所にある「小樽おり鮨」は、新鮮なネタをそのまま握るご当地グルメ「蝦夷前寿司」が人気のお店です。11月頃は身が厚く濃厚な味わいの「秋シャコ」や、脂ののった幻の白身魚「八角(ハッカク)」など、現地ならではの極上の旬ネタに出合える季節。芳醇な地酒とのペアリングは、小樽の食文化の奥深さを教えてくれます。


標高532mの「天狗山」から見下ろす小樽の夜景。

標高532mの「天狗山」から見下ろす小樽の夜景。


小樽の風物詩である「秋シャコ」。

小樽の風物詩である「秋シャコ」。



今月の橋

今月の橋

浅草橋

 小樽運河の一番南側(札幌側)、日銀通りと運河の交差する場所に位置する「浅草橋」。橋の名前は近くの浅草寺による。1986年の運河改修に伴い架け替えられ、石畳の遊歩道やガス灯とともに広場が整備された。橋の上は運河と倉庫群が映える定番の写真撮影スポット。夕暮れにはガス灯が点灯し倉庫がライトアップされ、昼間とはまた違ったロマンチックなムードが味わえる。