映画で巡る世界の街
 Vol.76

クアラルンプール

所在地【マレーシア】

急成長の多文化都市、
クアラルンプール

 マレーシアの首都で東南アジア有数の大都市、クアラルンプール。街の始まりは19世紀半ば、中国人がスズの採掘拠点として開発したのがきっかけです。19世紀後半にイギリスの統治下になると発展は加速し、インドや中国から多くの労働者が移住しました。それが現在の多民族都市につながっています。
 そして1957年にマラヤ連邦として独立し、1963年に現在のマレーシアになった後、首都のクアラルンプールは急成長。市内中心部の「クアラルンプール・シティ・センター」には世界トップレベルの超高層ビルが林立し、都市としての進化を続けています。
 街にはイギリス統治時代の西洋建築やイスラムのモスク、ヒンドゥー教の寺院、レトロなチャイナタウンなども点在。多民族が共存するエキゾチックな雰囲気や多文化都市独特のエネルギーが、クアラルンプールの魅力となっています。

アクセス

東京(成田・羽田空港)からクアラルンプール(クアラルンプール国際空港)まで直行便で約7時間10分。空港から市内中心部まで車で約1時間。

モノレールは、KLセントラル駅とティティワンサ駅を約20分でつなぐ。

モノレールは、KLセントラル駅とティティワンサ駅を約20分でつなぐ。

国の面積は東京ディズニーランド約4個分の約2.1㎢で、人口は約3万6千人(2023年現在)。

クアラルンプールの人口は約207万人(2024年)。近代的な高層ビルが建ち並ぶ大都会だが小道に入れば屋台などがひしめきあうエネルギッシュな街。公用語はマレー語(マレーシア語)だが、市内の看板は中国語やタミル語(インド系)などの多言語で書かれている。観光地やビジネスでは英語でコミュニケーションをとる人が多い。写真中央左に見えるのは、1996年に完成した「ペトロナス・ツインタワー」。それぞれ日本と韓国の会社によって建造された。

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  経済発展を象徴する高層ビル

 近年、クアラルンプールが舞台となった大作映画に『エントラップメント』(1999・アメリカ)があります。本作は、美術品泥棒のマック(ショーン・コネリー)と保険会社の女性調査員のジン(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)との駆け引きを描いたサスペンスアクションで、後半のメインロケ地となったのが街のランドマークとして知られる「ペトロナス・ツインタワー」。高さ約452m、88階建てのツインタワーが新年を迎えるために4万個の電球でライトアップされた中、華麗な強奪劇が繰り広げられました。

 恋愛コメディでは、優秀な大学教授と不動産王の御曹司の結婚をめぐる騒動を描いた『クレイジー・リッチ!』(2018・アメリカ)があります。もともとの舞台はシンガポールですが、クアラルンプールでも多くの撮影が行われました。例えば、ラグジュアリーホテルの「セントレジスホテル」や地元の人々から憩いの場として親しまれている「ペルダナ植物園」などがロケ地でした。その植物園の近くには独立宣言の場となった「ムルデカ広場」もあり、この周辺は昔ながらの街並みが残っているエリア。「スルタン・アブドゥル・サマドビル(旧連邦事務局)」をはじめとするイギリス統治時代の歴史的建造物を見ることができます。

 また、近隣のチャイナタウンには、雑貨を扱う店が多い「セントラルマーケット」があり、お土産で人気の「ニョニャウェア(プラナカン陶器)」も揃っています。プラナカンとは、中国系男性と現地のマレー人女性の子孫のことで、異文化を融合させた独自の「プラナカン文化」のことも意味します。華やかな色彩が特徴で、お土産では縁起物が描かれた食器が特に喜ばれています。

都会のオアシス「ペルダナ植物園」は、高層ビルが建ち並ぶKLセントラル駅近くにある。

都会のオアシス「ペルダナ植物園」は、高層ビルが建ち並ぶKLセントラル駅近くにある。


植民地時代の1897年に建てられたイスラム様式を取り入れた「スルタン・アブドゥル・サマドビル」。400万個ものレンガが使用された。

植民地時代の1897年に建てられたイスラム様式を取り入れた「スルタン・アブドゥル・サマドビル」。400万個ものレンガが使用された。


カラフルな「プラナカン陶器」。

カラフルな「プラナカン陶器」。

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  食文化も多国籍

 他にも、最下層で生きてきた中国系の兄弟の過酷な運命を描き、世界の映画祭で数々の賞に輝いた『Brother 富都(プドゥ)のふたり』(2023・マレーシア/台湾)は、貧困層が多く住む「プドゥ」地区が舞台。実際にプドゥで撮影が行われ、兄が働いていたのは、市内最大規模の生鮮食品市場「プドゥ市場」でした。また、ラストのほうで出てくる「ワンタンミー(ワンタン麺)」の店は、市内随一の繁華街「ブキッ・ビンタン通り」にある1925年創業の有名店「トン・クン・チャイ」。ソウルフードの1つで、クアラルンプールでは、汁なしでスープ別添えも選べます。

 ブキッ・ビンタン通りには、地元で評判のマレー料理レストラン「マダムクアンズ」があるので、ロケ地巡りの夕食におすすめです。看板メニューはマレーシアの国民食といわれる「ナシレマ(ココナッツミルクで炊いたご飯)」で、辛いサンバルソースを混ぜるのが一般的。味付けした魚のすり身をココナッツの葉などで包んで炭火焼きした「オタオタ」という伝統料理もおいしく、地元の人と観光客で常に賑わっています。


細い卵麺にワンタンやチャーシュー、青菜などをトッピングした「ワンタンミー」。

細い卵麺にワンタンやチャーシュー、青菜などをトッピングした「ワンタンミー」。


「ナシレマ」。

「ナシレマ」。

「ブキッ・ビンタン通り」周辺には大型ショッピングモールや多くの店が軒を連ね、人通りが絶えない。

「ブキッ・ビンタン通り」周辺には大型ショッピングモールや多くの店が軒を連ね、人通りが絶えない。


今月の橋

今月の橋

サロマ・リンク橋

クラン川に架かる歩行者と自転車が通れる全長69m、幅3mの橋。カンポン・バル地区とクアラルンプール・シティ・センター地区を結んでいる。橋の形はマレーシアの結婚式に欠かせないビンロウの葉の飾りをイメージしたもので、橋の名前はマレー系シンガポール人歌手のサロマにちなんでいる。ガラスパネルが格子状に複雑に組み合わされ、夜間のライトアップが美しい。